6000Hit寄贈レポート「忍術教室潜入報告書〜ロストファイル〜」

「NINJYUTU」の看板が寒々しく立つこのビルの前に、我々バカ4人組は再び佇んでいた。
前回…というか、昨日非道い目にあって必死で逃げ出したにも関わらずこの腐った気な
場所に再びやって来た訳は、帰り道に1人がポツリと洩らした「あっ!学生証落した」の一言の所為。
そんなもん自業自得なのだから一人で頑張って取って来いと、係わり合いを嫌がる皆の正常な反応に、
彼の方も必死の説得作業を行った結果、素敵な友情パワーの助けもあり昼間なら教室も開いていない
だろうから大丈夫だろうという事で全員納得(いや、決して昼飯オゴリに目が眩んだわけでは)。
てな事情で、我々は1度は悪の秘密結社から逃げ出した改造人間の気分でビビりながら入って行ったのだった。

結論から先に言うと、「昼間なら教室の時間じゃないから、速攻で学生証を返して貰って離脱、離脱ぅ!」作戦は
アッサリ失敗。
何故なら中に入った教室で我々が見たものは、5〜6歳くらいの子供達がウゾウゾと部屋の中を動き回っていたのだ。
んで、奥の方には子供達に囲まれてる黒装束を着込んだブライトのオヤジ。
私の脳裏には「怪し過ぎる」とか「やっぱり、悪の手先かなんかでそこら辺の子供を拉致って戦闘員にでも
育てているのか?」とか、自分でもちと偏ってるな〜と思わんでもない思考がグルグルと回っていた。
入った途端に当初のプロジェクト(と言えるほどのレベルではないが)が覆され「どうしよう」と固まっている
我々を目敏く見付けたブライトは
「いやぁ〜よく来たね。何?教室に入りたいの?」
等と恐ろし過ぎる事を言いながら近づいて来る。
奴に主導権を握られるとまたゾロ、屈辱的なダンスとかさせられそうだったので慌てて落し物をした奴に肘をくれて
合図を送り、学生証を取りに来た事情を説明させました。
ブライトの方もちゃんと見つけて保管してあると言うので、じゃあ、後は受け取って帰るだけだから安心だと
気を抜いたら甘かった、ブライトが爽やかな口調で
「でも、今は子供達に教えている時間だからそれが終わるまで事務所に取りに行けないよ。
折角だから君達も一緒に…
「「「「いえ、良いです。後でまた取りに来ます。」」」
奇しくも4人揃って完全否定。この時ばかりは皆の心は一つに(ちっとも嬉しくない)
だが、ウダウダとしつこく粘られ断る理由を探すのも面倒臭くなり、仕舞には全員が
「まあ、今回は子供に教えるんだしそう無茶な事はしないだろう」と無理矢理納得する羽目に。

一体今回は何を始めるのかと思えば「手裏剣」だそうです。
何だ、やろうと思えばそれなりにまともなのも出きるんじゃないかと思ったのですが大間違い。
各自に配られた手裏剣からしてもう駄目っぷりが如実に表れています。
形は割とオーソドックスな十字手裏剣、八方手裏剣の2タイプ。練習用の為にゴム製。
と、まあここまでは何の問題もありません。(いや、手裏剣の時点で問題ってのはこの際なし)
手裏剣の真中にはとぐろを巻くひ弱気な顔つきの龍のプリント付。十字手裏剣には各先端事に
「手」「打」「殺」「勝」…何?手打ち?蕎麦屋?
ちょっと考えてみて、ひょっとしたら「手で打って(投げて)相手を殺して勝つ」という意味でも
込めてるんでしょうか。…だとしたら、何で態々そんな4コマ漫画みたいな真似を。
続いてもう片方の八方手裏剣は輪をかけて酷いというか既に色んな意味で終わっています。
「龍」「~」「宝」「眞」「邪」「避」「G」「天」、もう何がなんだか。
ブツ。 そのブツ。クリックで巨大化(笑)。
大体、こんなに自己主張の激しい手裏剣投げてどーしようというのでしょう。全然忍んでないじゃないですか。
それとも何でしょうか。これが刺さって死に逝く相手が、自分を殺した相手を探ろうと、この7不思議並みに訳の
分からん手裏剣を見つけて「???」と混乱しながら死んで逝くように計算し尽くした上なんでしょうか。
んな訳きゃないですね。
さり気なく、このバカ手裏剣が台湾製だという所が既にココの方向性を物語ってます…
問題だらけの手裏剣を持ちながら「帰りゃよかった」と毎度の事ながら遅すぎる後悔に浸っていると、
イカレ忍者のブライトが号令をかけ練習が始まりました。
子供達は道場の端に移動し、我々4人は道場の真中に立たされ、子供達とは反対側の壁に立掛けられている、
手書きと思わしき妙に歪な丸が書かれた的に向かって手裏剣を投げます。
どう頑張った所でゴム製の手裏剣が的に刺さる筈もなく
べちぃ
と情けない音を立てては床に転がり落ちます。各自は手持ちは3枚しかないので全部投げ終わったら
的まで行って拾ってまた「ふり出しに戻る」です。
ゴム製の手裏剣をべちべちと投げては拾い、投げては拾いの繰り返し。こんなに侘しくなる行為は
なかなかないと思います。
しかし、これはこれで不毛でも恥をかくよりはマシなので時間切れになるまで黙々と流れ作業に従事しようとしたら、
イカレ忍者のお気に召さなかったようで、徐に近寄ってくるとこちらの手裏剣を奪い取り
「駄目駄目!それでは子供の手本にならないですっ。」
何でコ奴の弟子でもない只の一般人の我々が見ず知らずの子供に手本を示さなければいけない、なんて理屈が
勘違い星人に理解される筈もなく、彼の暴走は果てしなく何処までも続きます。
「気合を入れないでどうするんだ?気合を入れないと相手を倒せないぞ。」
そう言ってから手裏剣を握り
「うおおおりゃーーーっ!」
物凄く喧しく怒鳴りながら手裏剣をぶん投げました。はー、流石に師範を張ってるだけはあって飛んでいくスピードが
違います。が、所詮ゴム製。先程までと同じように
べちぃ
と気の抜けるような音を立ててお終いです。
しかし、気合云々とか相手を倒す(誰を?)とか置いとくとしても、叫ぶのはマズイでしょう
あんた…スーパーロボットの必殺技じゃないんだから。
仮にも闇に潜んで相手を確実に殺す忍者が一々叫んで手裏剣投げてたら任務達成どころか生きて帰れないって。
本当にこのオヤジは日本で修行してたんでしょうか?
何か、何もかもがどーでもよくなってきた我々を他所に、ギャラリーのガキ共は激しく盛り上がってます。
受けた事で満足したのかブライトは手裏剣をまた我々に渡し、
「さ、こんな感じでやってみなさい」
…すいません勘弁して下さい、誰にでも出きる事と出来ない事があるんです…
最初からやる気なんてないのに、この発言でマイナスの値まで削ぎ落とされてしまいました。
「いや、もう充分堪能させて戴きましたから」
適当な事を言いつつ、お茶を濁して後ろに下がろうとすると子供達は好き勝手言ってるのが聞こえます。
「何だ、あの人達はやってくれないんだ」
「根性なしなんだね」
「あれぐらいぼく達だって出来るのにね」
未だ手に持っている手裏剣を全力で(それこそ叫びつき)ぶち当ててやろうとする右手を押さえていると
横の友達がポツリ「…誰でもいいから成敗してくれ」と洩らしたのが、何となく心に残りました。

まぁその後は誘われても断固として断り、終了時間まで無事に逃げ切り学生証を帰して貰うと
その場を後にし以降、ここが潰れたと知るまでは建物のある道にすら近寄りませんでした。
「事前調査は必ず忘れずに」・・・得がたい教訓です。

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